2300 - 見分けがつかない

リップクリームをなくした。まだ1ミリくらいしか使っていないやつ。しかも2本。いつも2本入りのメンソレータムを買っていて、今回もメンソレータムをなくした。2本ともなくした。

もともと、お化粧をすることがあまりすきではなくて、どんどんどんどん薄化粧になってきた。薄化粧になってきたといってもお化粧をしていたときでさえふつうのひとから比べたら薄化粧だったと思うので、今はもうほぼすっぴんだと思う。くちびるにはリップクリーム以外のものを塗らない。タンブラーやコップのふちやマスクの裏側にグロスや口紅がつくのが嫌だし、よれたり取れたりして塗り直したりするのも嫌だし、そもそもじぶんがグロスや口紅を塗るのが嫌だし、グロスや口紅を選んだり買ったりするのも嫌だった。女の子らしいものを手にしたり身につけたりすることが苦手だった。

けれど、ここ数年お化粧をまともにしなくなって、くちびるは赤いほうがかわいいな、と思っていた。

昨年の年末、めずらしくリップクリームを失くさず使い切ることができて、新しいリップクリームを買うときがきた。新しいリップクリーム。グロスや口紅を買うことはできないけれど、色付きのリップクリームならいけるかもしれない。ぱぱすのリップクリームコーナーで逡巡した。新しい風が吹く。よし、色付きのリップクリームだ。

意を決して色付きリップクリームを手に取ったのだが、どうせなくすのにどうして色付きリップクリームを買う必要があるのかわからなくなって、陳列棚に戻した。どうせなくす。色付きリップクリームは儚い夢だ。結局いつものメンソレータム2個入りを買った。なくすことを前提に選ばれるメンソレータムはかわいそうかもしれない。ぱぱすのリップクリームコーナーでウンウン悩んだ十数分間も無駄にしたし、色付きリップクリームでかわいくなれたかもしれないチャンスも不意にした。

そうして買ったメンソレータムをなくした。真っ先に「やっぱり色付きのを買わなくてよかった」と思ったことが少しだけかなしかった。

お昼休みに、バイト先の近くの冴えない薬局でリップクリームを買った。どうせなくすからと思って、いつもの2本入りのを2つ買った。計4本。それでも400円弱。どうせなくすから。

バイト先に戻ってきて、トイレで、買ってきたばかりのリップクリームのパッケージを開けた。ぼんやり手に持ったときに違和感があった。でも気づかないふりをした。パリパリになったくちびるに塗ってみて、確信した、メンタームだ。

かなしかった。わたしはメンタームメンソレータムさえ見分けがつかないのだ。そしてきっと今日買ったメンタームを4本全てなくすまではメンソレータムを買い直すことさえしないのだ。メンタームは硬くてすきじゃないのに。そしてきっとこういうときはなくせないのに